まだ先の話?米2024年大統領選挙

選挙前と選挙後でここまで顕著に人気を失った候補もなかなか珍しい気がする。バイデン大統領の支持率(白線)は以下の通りかなり低調に。アフガニスタン撤退での失態、移民問題に加え、今もインフレの高止まりで政権には相当なプレッシャーがかかっているに違いない。

※チャートはBloombergより

そんなバイデン政権だが、ここに来てようやく念願の大きな政治的成果を上げた。所謂「インフレ抑制法案」だ。もはや悲願のビッグディール成立だが、規模は4,370億ドル(約58兆円)と、これでも当初の計画の1.75兆ドルを下回っている。今回の法案では環境問題(エネルギー安全保障、気候変動対策)に支出する金額が最も大きく、金額にすると約3,700億ドル。法案の85%近くを環境問題に割いていることになる。中身の詳細には具体的に触れていくのは避けるが、その他の分野では、薬価の引き下げに寄与する政策や、15%の最低課税を逃れている企業に対して課税を徹底するための制約も盛り込まれている。ただ、この法案には”抜け穴”的な部分もあり、15%の最低課税をPEファンド等のファンドマネージャーが優遇される「Carried Interest」の制度は維持され、高所得層への増税も実現していない。加えて、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)の納税にかかる能力の拡充に複数年に渡って800億ドルもの出費を行っている。この点についてはIRSが銃を携行する職員を募集し始めた等の報道が伝わるなどまた新たな火種を生んでいるようだ。

では今回の法案が政権の支持率を上げるのに寄与するのか?答えはノーだと考える。比較的即効性のある政策が少なく、インフレ抑制法案という名の割にはインフレを本当に抑制するための政策なのかが曖昧な法案は正直今回の中間選挙で共和党の勢いをそぐ材料とはならないだろう。現在中間選挙の予想では米選挙関連情報サイトのPOLITICOによれば上院下院共に共和党が勝利予想。その他有力選挙情報サイトのFiveThirtyEightの予想では上院はやや民主党が優位、下院は共和党の圧勝ということになっている。仮に上下両院を共和党が制するとなると、2025年の1月まで任期を残した状態でレームダック政権になる可能性が出てきます。おそらく仮に上下を共和党が制した場合でもバイデン大統領が次回選挙戦に出馬する意向を示しているうちは、まがいなりにも政権運営は行われるだろうが、出馬しないとなると報道陣や有権者からはもはや”過去の人”扱いになり名実共にレームダック政権となる。レームダック政権になると基本的に法律を成立させるのは至難の業だ。

こんな最中、民主党からは有力な次期大統領候補が出てきていない。となると、気になるのは「例のあの人」の再登場だ。名前を挙げずともわかるかと思うが、トランプ前大統領が再選する可能性がかなり現実的になりつつある。実際のところ民主党候補でバイデン大統領以外の候補者の層はあまり厚くない。そして、民主党側からすればトランプ氏が出馬するのであれば、彼を打ち負かしたバイデン大統領を再出馬させざるを得ないだろう。選挙戦が本当に面白くなるのはトランプ氏が出馬をしない、或いは何らかの要因で出馬ができなくなった場合だ。現在進行形で行われているトランプ氏に対する捜査はまさにそういった事象となるだろう。民主党寄りの法律ブログではトランプ氏を疑義の無いように最初から候補から外すように努力すべきとの意見すら出てきている。民主党議員も躍起になってこの話題を持ち上げることだろう。仮にこのトランプ降ろしの試みが成功してトランプ氏が出馬しないのであれば、米国の有権者は間違いなく「トランプ氏以外であればどの候補でもいい」という思考から解き放たれることになる。それに加えてバイデン大統領も早期に次期大統領選出馬を撤回することを選択肢に入れることができる。

ただ、そうなった場合に民主党が有利になるかというとそう単純ではないかもしれない。先程触れたように結局は候補者の層の厚さに全てがかかっている。民主党側の候補ですぐに名前が出てくるのはカマラ・ハリス氏、ピート・ブティジェッジ氏の2名くらいだ。そして、前者に関しては既にバイデン候補以上に支持率が低い(その他にも候補が挙がっているが、あまり現実見のある候補はいないように思われる)。それに対して、共和党候補は現職のフロリダ州知事のデサントス氏(共和党支持者に向けた調査によればトランプ氏を上回る人気も)を筆頭に層が比較的厚い。前副大統領のマイク・ペンス氏、女性候補としてニッキー・ヘイリー氏など複数の有力な候補者が挙がる。さらに、トランプ氏の立候補を不可能にするための試みが万が一あだとなった場合には注意したい前例のない手法で進めているトランプ氏追及が成功しなかった場合、トランプ氏は立候補できるだけではなく、公に潔白が証明され、民主党側の行動が非難されることは必須。そうなれば民主党候補でこの動きを支持した候補は分が悪くなる可能性も。トランプ氏が立候補できる場合、そうでない場合、いずれを考えたとしても、2025年以降米国は大統領から上下両院を含め全てが共和党優位となる可能性を現実味の高いものとして警戒しておいた方がよさそうだ。仮にトランプ氏が再び大統領になった場合、バイデン政権下で行われた政策の劇的転換も十分に考えられる。まずはその前哨戦となる中間選挙に向けての米国政治情勢からは目が離せない。

#Trade Idea EURJPY

ユーロ円が三尊型(トリプルトップ)を形成しそうだ。18日の相場の動きがまさにそうだが、ドル買いの動きに円売りの動きが取り残され、ドル円が上昇してもユーロ円だけが落ちるタイミングは大いにあり得そうだ。

ユーロ圏の経済状況はご存知の通り悪化の一途を辿っており、ユーロに対してポジティブな話は正直かなり少ない。その状態で対円でだけこの位置なのは中々に違和感がある。

ユーロドルがこのまま直近のボックス圏(1.01-1.03)を下抜けるのであれば、ユーロ売りの動きがユーロ円を主導し下落方向に足を速める可能性もある。

タイムサイクルで見ると、三尊型のトップ形成にはおよそ3か月程度(かなりサイクルは雑だが、、、)の時間をかけているように見える。スイングよりも長めのポジショントレードになるがユーロ円の下方向ベットも面白そうだ。

父なるライン川

ドイツのガス危機については既にご紹介したが、今まさに大変な状況のドイツに追いうちがかかっている。それはドイツの主要河川のライン川に発端する。ライン川はヨーロッパ中部を流れ、オランダ、フランス、ドイツを流れる大河川。さらにこの川はドイツにとっては歴史的に物流の要になっており、多くの企業がそのサプライチェーン継続のためにライン川を使っている。今そのライン川の水位が低下しているのだ。既に水位は2018年以来の水準まで低下しているが、報道によればまだまだ低下する余地があるようだ。既に航行できる船舶に制限がかかっている状況だが、場合によっては事実上の航行不能となるリスクも十分あり得る

※以下Bloombergよりライン川

そうなると真っ先に影響を受けてくるのが、原材料や製品の輸送にライン川を使う製造業。さらに、エネルギー危機の真っただ中で苦戦しているユーティリティ企業達も影響を受ける。独ウニパーによれば、一部の発電所からの発電量を削減しなければならない可能性が出てきているようだ。既に警戒されているエネルギー危機の状況に拍車をかける現象が今まさに起きている。原因は天然ガスの代替として使用されている石炭。この石炭はライン川を渡って発電所に輸送されているため、川の水位の低下がそのまま発電に直結している(ロイター記事:Low Rhine water level to hit output at two German coal plants)。欧州のエネルギー危機では飽き足らず、ライン川からくる物流危機まで発生するとなると、これは欧州にとっては更なる悪材料になるに違いない。

EURUSD相場を見ると、現在ボックス圏での推移が確認できる(Bloombergを使用し作成)。エネルギー危機に加えて、ライン川の水位低下に伴う物流危機も進展していく可能性を考えれば、欧州の経済が力強いとは到底考えられない。FEDが利下げを休止するということでマーケットは盛り上がっている様子だが、ECBが途中で利上げを小休止するリスクの方が現実的にはもっと高そうだ。そうなった場合、再びEURUSDはパリティを試し、さらにもう一段下方向への動きを加速するものと考えている。

欧州ガス危機とユーロ

欧州圏のガス危機が深刻さを増していますが、実際どの程度ヤバいんでしたっけ?

そもそもEU圏に供給されるガスは基本的にロシア、ノルウェー、アルジェリアがその80%弱を占めます。そして特にドイツはロシアにかなりガス供給を頼ってきたつけが来ている感じです。ドイツに関しては主たる供給元のノルドストリーム1が6月半ばから本来の40%の能力で運転する状況になり、さらに7月の終わりには20%程度の設備稼働になっています。

冬にむけて備蓄の積み増しが急がれる現在の状況ではノルドストリーム1をさながら人質に取られた状況はドイツにとっては大変なことです。現在ドイツはEU基準に則って制定されたガス供給の「緊急計画」の警戒レベルを3段階中の”2”まで引き上げています。レベル3まで行くとガスは”配給制”になります。国民生活に必須とみられるところに優先的に配給が行われることになるので、当然ですが経済を回すための工場設備とかが動かないという事態も容易に考えられます。そんな事態を避けるためにもドイツは歯を食いしばりながら石炭火力に頼ったり代替エネルギーを探したり大忙しです。

もちろん他の欧州各国もガスにそんなに余裕があるわけではなく(各国のエネルギーミックスを考えれば比較的影響度合いが低い国はありますが、)、EUはEU圏全体でガス消費量を削減する合意を域内で直近取り決めています。

ここから注目したい点は2点。

1.クリミア半島併合の際のように欧州がロシアの侵略を容認するか?

2.欧州が代替エネルギーを確保し、ロシア依存を脱却できるか?

1.の点に関しては欧州や全世界を巻き込んでウクライナの肩を持っている以上、ここからそれを何となくフェードアウトすることはほぼ不可能な気がしています。ロシア側は既に占領した地域の支配をEUに認めさせる魂胆でガスを人質に取っていることを考えると、ロシア側が折れることはまずないでしょう。と考えた際にEU側はウクライナに対して譲歩を求めに行くことになります。もう少し早い段階ならまだしも、戦闘がここまで長期化した以上この選択肢はほぼ消えてしまったということになります。

では2つめはどうか?既に石炭火力の復活や米国、カタールなどの輸出国から代替品を輸入している様子ですが、受け入れ基地等の制限や購入の条件、さらにはEU自身の足枷によってこれにも限界がありそうです。特にEU自身の足枷部分は今になってかなり効いてきています。一つはESG等の取り組みにかかるエネルギートランジションの問題。化石燃料の使用を2050年までにゼロにするという目標を掲げている欧州は石炭火力だけでなくガス使用も削っていく方針でした。ただ、その動きはいまだ道半ば。代替エネルギーの供給能力が間に合わないうちにパンデミックによる供給制約に次いで、ウクライナの戦争がはじまるというダブルパンチの状況に。

また、通常ガス供給契約については比較的長期のもの(5年超等)が多いのですが、欧州はこれが比較的割合が低いです。全世界で言うとおよそ70%程度が長期契約になっているのですが、欧州に限るとその割合は約50%程度まで落ちるそうです。理由はいくつかあるようですが、その一つが化石燃料へのコミットメントを長期で行うことを嫌気するEUのスタンス(2050年の化石燃料脱却を意識して、、)というものがあるようです。ここで問題になっているのが、ロシアの代替になるであろう供給国の一部はこういった長期契約を供給の条件にしているところです。これが一層欧州の代替先の足元での確保を難しくしています。

この点は少し前のロイターの記事でも触れられていました。

https://www.reuters.com/business/energy/should-europe-use-more-long-term-lng-contracts-2022-02-07/

エネルギー供給の問題はもちろん時間の経過と主に対策が効いて解決に向かうということなんでしょうが、足元EU圏に強気になれる人はあまり多くないでしょう。

ユーロの動きをみると、、、

振り返れば、コロナ禍の際につけた安値から欧州復興基金の設立によって2021年には1.23台半ばの高値をつけてます。足元は復興基金までの上げ分は全て吐き出した後に、2/24日のロシアによるウクライナ侵攻以降は綺麗な下降トレンドを形成し、そのまま値を下げていっています。そして、今のところ50日、100日移動平均をしっかり抜けきれた試しがなく、反発を見るにはこの辺をしっかり抜けような強い材料が必要そうです。先程挙げた2点がECBのスタンス云々よりも重要だと個人的には思っているので、当面この辺に戻すことは難しいと思っています。移動平均の水準をバックにEURは下方向を見ていきたいです。

※チャートはBloombergより

米大統領執務不能リスク

バイデン大統領が新型コロナに感染した他の報道が伝わっています。今のとこらかなり元気そうに執務をこなしているように見えますが、79歳の高齢であることを考えれば正直不安な部分があります。仮に大統領としての執務が不能になった場合、何が起きて来そうなのか考えてみるのは重要かもしれません

以下Wikipediaさんのリンクですが、大統領が職務不能となった場合に業務を引き継ぐ人間の順番が書いてあります。https://en.m.wikipedia.org/wiki/United_States_presidential_line_of_succession

色々と順番があるようですが、ほぼ確実に後継はカマラ・ハリスになりそうです。それだけなら副大統領に権限が移るだけなので問題無さそうですが、実はハリス氏は民主党内でも人気がかなりなくなっているのが色んなところで取り沙汰されています。

例えば以下はBBCの報道ですが、執務期間中の色々な失敗についてまとめられてます…

https://www.bbc.com/news/world-us-canada-60061473

今回バイデン氏がハリス氏に大統領を交代した場合、何か起死回生の材料となるような出来事がない限り求心力の低下が否めないでしょう。そして忘れてはいけないのが、今回の中間選挙では共和党が上下両院とも過半数を取ってしまうリスクがあると言う点です。そうすれば、政権発足直後からレームダック政権が誕生することになります。

人気のない政権、かつ何も法案が通らないという話になってくるとハリス氏になった場合は何も政策が進まないリスクが高い事に加えて、現在の政権の要人が交代するリスクがあります。例えばイエレン財務長官などのキーパーソンもこの場合交代してしまうリスクがあります。かなりのテールリスクではありますが、こうなった時に米ドルがどう動くか考えておくのは良いことだと思います。とりあえずバイデンさん元気に戻ってきて下さい。