Updated on 8月 27, 2022
まだ先の話?米2024年大統領選挙
選挙前と選挙後でここまで顕著に人気を失った候補もなかなか珍しい気がする。バイデン大統領の支持率(白線)は以下の通りかなり低調に。アフガニスタン撤退での失態、移民問題に加え、今もインフレの高止まりで政権には相当なプレッシャーがかかっているに違いない。
※チャートはBloombergより
そんなバイデン政権だが、ここに来てようやく念願の大きな政治的成果を上げた。所謂「インフレ抑制法案」だ。もはや悲願のビッグディール成立だが、規模は4,370億ドル(約58兆円)と、これでも当初の計画の1.75兆ドルを下回っている。今回の法案では環境問題(エネルギー安全保障、気候変動対策)に支出する金額が最も大きく、金額にすると約3,700億ドル。法案の85%近くを環境問題に割いていることになる。中身の詳細には具体的に触れていくのは避けるが、その他の分野では、薬価の引き下げに寄与する政策や、15%の最低課税を逃れている企業に対して課税を徹底するための制約も盛り込まれている。ただ、この法案には”抜け穴”的な部分もあり、15%の最低課税をPEファンド等のファンドマネージャーが優遇される「Carried Interest」の制度は維持され、高所得層への増税も実現していない。加えて、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)の納税にかかる能力の拡充に複数年に渡って800億ドルもの出費を行っている。この点についてはIRSが銃を携行する職員を募集し始めた等の報道が伝わるなどまた新たな火種を生んでいるようだ。
では今回の法案が政権の支持率を上げるのに寄与するのか?答えはノーだと考える。比較的即効性のある政策が少なく、インフレ抑制法案という名の割にはインフレを本当に抑制するための政策なのかが曖昧な法案は正直今回の中間選挙で共和党の勢いをそぐ材料とはならないだろう。現在中間選挙の予想では米選挙関連情報サイトのPOLITICOによれば上院、下院共に共和党が勝利予想。その他有力選挙情報サイトのFiveThirtyEightの予想では上院はやや民主党が優位、下院は共和党の圧勝ということになっている。仮に上下両院を共和党が制するとなると、2025年の1月まで任期を残した状態でレームダック政権になる可能性が出てきます。おそらく仮に上下を共和党が制した場合でもバイデン大統領が次回選挙戦に出馬する意向を示しているうちは、まがいなりにも政権運営は行われるだろうが、出馬しないとなると報道陣や有権者からはもはや”過去の人”扱いになり名実共にレームダック政権となる。レームダック政権になると基本的に法律を成立させるのは至難の業だ。
こんな最中、民主党からは有力な次期大統領候補が出てきていない。となると、気になるのは「例のあの人」の再登場だ。名前を挙げずともわかるかと思うが、トランプ前大統領が再選する可能性がかなり現実的になりつつある。実際のところ民主党候補でバイデン大統領以外の候補者の層はあまり厚くない。そして、民主党側からすればトランプ氏が出馬するのであれば、彼を打ち負かしたバイデン大統領を再出馬させざるを得ないだろう。選挙戦が本当に面白くなるのはトランプ氏が出馬をしない、或いは何らかの要因で出馬ができなくなった場合だ。現在進行形で行われているトランプ氏に対する捜査はまさにそういった事象となるだろう。民主党寄りの法律ブログではトランプ氏を疑義の無いように最初から候補から外すように努力すべきとの意見すら出てきている。民主党議員も躍起になってこの話題を持ち上げることだろう。仮にこのトランプ降ろしの試みが成功してトランプ氏が出馬しないのであれば、米国の有権者は間違いなく「トランプ氏以外であればどの候補でもいい」という思考から解き放たれることになる。それに加えてバイデン大統領も早期に次期大統領選出馬を撤回することを選択肢に入れることができる。
ただ、そうなった場合に民主党が有利になるかというとそう単純ではないかもしれない。先程触れたように結局は候補者の層の厚さに全てがかかっている。民主党側の候補ですぐに名前が出てくるのはカマラ・ハリス氏、ピート・ブティジェッジ氏の2名くらいだ。そして、前者に関しては既にバイデン候補以上に支持率が低い(その他にも候補が挙がっているが、あまり現実見のある候補はいないように思われる)。それに対して、共和党候補は現職のフロリダ州知事のデサントス氏(共和党支持者に向けた調査によればトランプ氏を上回る人気も)を筆頭に層が比較的厚い。前副大統領のマイク・ペンス氏、女性候補としてニッキー・ヘイリー氏など複数の有力な候補者が挙がる。さらに、トランプ氏の立候補を不可能にするための試みが万が一あだとなった場合には注意したい。前例のない手法で進めているトランプ氏追及が成功しなかった場合、トランプ氏は立候補できるだけではなく、公に潔白が証明され、民主党側の行動が非難されることは必須。そうなれば民主党候補でこの動きを支持した候補は分が悪くなる可能性も。トランプ氏が立候補できる場合、そうでない場合、いずれを考えたとしても、2025年以降米国は大統領から上下両院を含め全てが共和党優位となる可能性を現実味の高いものとして警戒しておいた方がよさそうだ。仮にトランプ氏が再び大統領になった場合、バイデン政権下で行われた政策の劇的転換も十分に考えられる。まずはその前哨戦となる中間選挙に向けての米国政治情勢からは目が離せない。