欧州ガス危機とユーロ

欧州圏のガス危機が深刻さを増していますが、実際どの程度ヤバいんでしたっけ?

そもそもEU圏に供給されるガスは基本的にロシア、ノルウェー、アルジェリアがその80%弱を占めます。そして特にドイツはロシアにかなりガス供給を頼ってきたつけが来ている感じです。ドイツに関しては主たる供給元のノルドストリーム1が6月半ばから本来の40%の能力で運転する状況になり、さらに7月の終わりには20%程度の設備稼働になっています。

冬にむけて備蓄の積み増しが急がれる現在の状況ではノルドストリーム1をさながら人質に取られた状況はドイツにとっては大変なことです。現在ドイツはEU基準に則って制定されたガス供給の「緊急計画」の警戒レベルを3段階中の”2”まで引き上げています。レベル3まで行くとガスは”配給制”になります。国民生活に必須とみられるところに優先的に配給が行われることになるので、当然ですが経済を回すための工場設備とかが動かないという事態も容易に考えられます。そんな事態を避けるためにもドイツは歯を食いしばりながら石炭火力に頼ったり代替エネルギーを探したり大忙しです。

もちろん他の欧州各国もガスにそんなに余裕があるわけではなく(各国のエネルギーミックスを考えれば比較的影響度合いが低い国はありますが、)、EUはEU圏全体でガス消費量を削減する合意を域内で直近取り決めています。

ここから注目したい点は2点。

1.クリミア半島併合の際のように欧州がロシアの侵略を容認するか?

2.欧州が代替エネルギーを確保し、ロシア依存を脱却できるか?

1.の点に関しては欧州や全世界を巻き込んでウクライナの肩を持っている以上、ここからそれを何となくフェードアウトすることはほぼ不可能な気がしています。ロシア側は既に占領した地域の支配をEUに認めさせる魂胆でガスを人質に取っていることを考えると、ロシア側が折れることはまずないでしょう。と考えた際にEU側はウクライナに対して譲歩を求めに行くことになります。もう少し早い段階ならまだしも、戦闘がここまで長期化した以上この選択肢はほぼ消えてしまったということになります。

では2つめはどうか?既に石炭火力の復活や米国、カタールなどの輸出国から代替品を輸入している様子ですが、受け入れ基地等の制限や購入の条件、さらにはEU自身の足枷によってこれにも限界がありそうです。特にEU自身の足枷部分は今になってかなり効いてきています。一つはESG等の取り組みにかかるエネルギートランジションの問題。化石燃料の使用を2050年までにゼロにするという目標を掲げている欧州は石炭火力だけでなくガス使用も削っていく方針でした。ただ、その動きはいまだ道半ば。代替エネルギーの供給能力が間に合わないうちにパンデミックによる供給制約に次いで、ウクライナの戦争がはじまるというダブルパンチの状況に。

また、通常ガス供給契約については比較的長期のもの(5年超等)が多いのですが、欧州はこれが比較的割合が低いです。全世界で言うとおよそ70%程度が長期契約になっているのですが、欧州に限るとその割合は約50%程度まで落ちるそうです。理由はいくつかあるようですが、その一つが化石燃料へのコミットメントを長期で行うことを嫌気するEUのスタンス(2050年の化石燃料脱却を意識して、、)というものがあるようです。ここで問題になっているのが、ロシアの代替になるであろう供給国の一部はこういった長期契約を供給の条件にしているところです。これが一層欧州の代替先の足元での確保を難しくしています。

この点は少し前のロイターの記事でも触れられていました。

https://www.reuters.com/business/energy/should-europe-use-more-long-term-lng-contracts-2022-02-07/

エネルギー供給の問題はもちろん時間の経過と主に対策が効いて解決に向かうということなんでしょうが、足元EU圏に強気になれる人はあまり多くないでしょう。

ユーロの動きをみると、、、

振り返れば、コロナ禍の際につけた安値から欧州復興基金の設立によって2021年には1.23台半ばの高値をつけてます。足元は復興基金までの上げ分は全て吐き出した後に、2/24日のロシアによるウクライナ侵攻以降は綺麗な下降トレンドを形成し、そのまま値を下げていっています。そして、今のところ50日、100日移動平均をしっかり抜けきれた試しがなく、反発を見るにはこの辺をしっかり抜けような強い材料が必要そうです。先程挙げた2点がECBのスタンス云々よりも重要だと個人的には思っているので、当面この辺に戻すことは難しいと思っています。移動平均の水準をバックにEURは下方向を見ていきたいです。

※チャートはBloombergより

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